さだまさしさんの「異邦人」

1976年11月25日発表のソロ1枚目のオリジナル・アルバムの1曲

「異邦人」というタイトルですと、どうしても久保田早紀さんの「異邦人」を思い出す人のほうが多いと思います。ですので、わざわざ“さだまさし”さんとはじめにつけました。とは書きつつ、今の若い人はどちらの「異邦人」もご存じないのではないか、と思っています。

 

さださんの「異邦人」は1976年発表の「帰去来」というアルバムに入っている歌で、久保田さんの「異邦人」は1979年にシングルとして発表された歌です。どちらがヒットしたかと言いますと、断然に久保田さんのほうです。久保田さんの歌はあるメーカーのテレビCMに使われたのですが、当時の言い方ですと「タイアップ」と言っていたように思いますが、それはともかくテレビのCMで流れるのですから宣伝効果が全く違いますので、大ヒットするのも当然でした。

 

しかし、久保田さんの「異邦人」が広告的に有利だったということだけではなく、メロディー的に優れて魅力的だったことも大ヒットした要因です。レコードのサブタイトルが「-シルクロードのテーマ-」となっていたのですが、アレンジも含めて東洋のエキゾチックな雰囲気を感じさせる楽曲でした。

 

あ、いけない。今回のメインは“さだまさし”さんの「異邦人」でした。僕が好きになるタイミングには「リアルではない」という特徴がありますが、この歌もその例に漏れておらず、発表されてからかなり年月が経ってから知ることになっていました。

 

久保田さんの「異邦人」は東洋的な雰囲気がする、と書きましたが、さださんの歌は「フランス風」な感じがします。歌詞を聴いていただくとわかるのですが、フランス映画を一作見たような錯覚に陥ります。

 

♪今更アルバムなんてほしくはないけれど
♪それがあなたのひとつだけの 形見となれば別だわ

 

これは出だしの歌詞なのですが、この出だしで一気に物語に引き込まれます。物語がはじまる気配をすぐに感じとることができます。歌詞を聴いていると、自然に風景が頭の中に浮かんでくるのです。

 

僕が好きなテレビ番組に「プレバト」というダウンタウンの浜ちゃんがMCを務めている番組があるのですが、その番組には「俳句コーナー」があります。そのコーナーで審査員を務めている夏井いつき先生という名物先生がいるのですが、その先生がいつも言っているのは「映像」です。夏井先生は映像と音を五七五の中に入れることをとても重要視しているんどえすが、さださんの「異邦人」の歌詞はまさに映像が浮かんできます。その意味で言いますと、この歌は「俳句的」と言えるかもしれません。

 

2番の歌詞は

♪狭いドアをあければ 涙を拭いもせず
♪あなたにすがる可愛い人 あなたの最後の人

 

おそらくそう遠くないときに命を終えるそのベッドの主は別れた旦那さんなのです。そして、その旦那さんには再婚して素敵な奥様がいるのです。そうしたことがどこはかとなく伝わってくる歌詞となっています。これを名作品と言わずなんと言いましょう。

 

僕の勝手な想像ですが、フランス映画には「人生にはいろいろあるよ」というテーマが根底に横たわっているように思っています。離婚をすることも、そして別れた夫との時間をたどることも、そして新しい妻と出会うことも、すべて「人生にはいろいろあるよ」と綴っているように思えて仕方ありません。

 

さださんは20代の頃に莫大な借金を抱え、それをずっと返済していたそうです。借金の原因は映画製作なのですが、そうしたリスクを冒しながらも挑戦し活躍している姿は尊敬の念しか浮かびません。さださんはNHKでずっと番組を持っているのですが、さださんを尊敬する人がプロデューサーにいるのでしょう。そうした人がいること自体が、いかにさださんが素敵な人かを教えてくれています。

 

それではまた。

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