春雷

ふきのとう:13枚目のシングル。1979年2月25日にCBSソニーよりリリース
作詞・作曲:山木康世/編曲:瀬尾一三

このコーナーを最初から読んで下っている方はご存じでしょうが、このコーナーは「心に残った『歌』」と書いていますように、本来は「曲名」を紹介するコーナーです。しかし、なぜか、気分の問題だったのかもしれませんが、第2回目はなんと「曲名」ではなく「歌っている人」を紹介してしまいました。

それが、「ふきのとう」でした。

その週は結局「ふきのとう」さんというグループの紹介からはじまり、最後に「やさしさとして思い出として」という楽曲の歌詞の紹介で終了しました。ですが、「ふきのとう」さんはその歌のほかにも名曲をたくさん残しています。本日は、その中から一曲を紹介することとします。

「春雷」です。

この歌は、「ふきのとう」さんの歌にしては珍しくテンポが早いロック調と言っていいのかわかりませんが、とにかく「ふきのとう」さんの得意とするセンチメンタル調ではなく、リズム感にあふれた躍動的なメロディーが展開しています。いわゆる「ノリノリ」しやすい歌なのです。

学生時代お調子者だった僕は、なにかうれしいこと、もしくはワクワクすることがあるときは必ずこの歌が口から出ていました。忘れもしません。あの雀荘でのできごと…。

その日、僕はなかなかいい配牌に恵まれずうらぶれた人生、ちがった、、、時間を過ごしていました。実力的にさほどうまくない雀士である僕は、やはり配牌こそが命、という部分があります。その僕にいい配牌がこないのですから、勝てるはずがありません。

しかし、ナンチャン目かのときです。配牌をみますとなんと役満をテンパっているではありませんか! 「春雷」が頭の中を駆け巡らないはずがありません。なんどでもいいます! 配牌の段階で役満をテンパってるんです! 僕の頭の中は

♪春の雷に 白い花が散り
♪桜花吹雪 風に消えてゆく

のメロディーが旋回していました。なんどもなんども…。

先ほど書きましたが、僕はお調子者だったのですが、同じくらい小心者でもありました。つまり、緊張に弱いのですね。そんな僕が、配牌の段階でテンパっていて、動揺しないはずがありません。役満がテンパってる配牌を見た瞬間は有頂天になり「春雷」が駆け巡った僕ですが、次第に心臓がドキドキしてきてしまいました。ですが、頭の中は「春雷」です。混乱の極みでした。

そんな僕の様子を見ていたほかのメンバーがなにも感じないはずはありません。「春雷」が口から出てきつつも、冷や汗も出てきたのです。僕の異変を察した一人がニヤニヤしながらカマをかけてきました。

「ねぇマルちゃん、まさか役満テンパってないよね」

僕は必死に笑顔を浮かべながら

「そんなわけないじゃん」

と返事をしながら、そのあと

♪声なき花の姿 人は何を思うだろう

と口ずさんでいました。そんな状況で、僕の3回目のツモる順番が巡ってきました。僕は心の中で、心の中だけで「こい、こい」と願いながら牌を人差し指でさすりますと、残念です。なにしろテンパっているのですから僕が待っているのはたったの一種類です。すぐに結果がわかります。

しかし、ここで考える素振りも見せませんと、テンパっているのがバレてしまいます。僕は実力派の俳優さながら、どれを捨てようかと考える素振りをし、一応ほかの牌と交換する動きまで見せ、しかし、結局はツモッてきた牌を捨てることにしました。

だって、テンパっているのですから当然です。捨てようとする牌を右手に持ち、口からは

♪春の雷に 白い花が散り

と歌いながら、牌を捨てたその瞬間です。対面に座っていたイマイ君が叫びました。

「ロン!」

人生はなんと意地悪なのでしょう。

この歌の歌詞は、「春」とありましたので、僕の第一印象は「卒業」でした。春という季語のせいもあると思いますし、

♪過ぎた日を懐かしみ 肩組んで涙ぐんで
♪別れたあいつは今 寒くないだろうか

という歌詞からは「友情」という言葉を思い浮かべます。つまり、僕は青春の歌だと思っていました。もう少し、話を展開させると恋愛の歌と言ってもよいかも、とさえ思っていあした。しかし、今回書くにあたり調べたところ、作詞作曲した山木さんのお母様がお亡くなりになったタイミングで作ったという解説でしたので、もっと深い内容が込められているそうです。

そうしたことを知ってからこの歌詞を読みますと、またこれまでとは違った印象になると思った次第です。

それでは、また。

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