ホームにて

1977年6月25日に発表された、中島みゆきの3作目のオリジナルアルバムに収録。
後にシングル「わかれうた」のB面としてシングルカット

中島みゆきさんの歌を紹介するのは3曲目ですが、この歌を知ったのも発表されてからかなり時間が過ぎてからです。これまでも「知ったのはずっとあと」という曲がたくさんありましたが、そのほとんどはラーメン店時代の有線放送だったように思います。しかし、最近の自分を思い返してみますと、だいたいがネット、つまりほぼすべてが「YouTube」からです。

ネットの弊害としてよく指摘されるのが、「自分の興味のある情報にしか接することができない」ということがあります。確かに、僕の性格や好きな傾向をネットさんは把握しているはずですが、僕の感じとしては、巷間いわれているほど偏っていないように思っています。なぜなら、僕の好きな傾向とはいってもその範囲がかなり広いからです。

僕が「ホームにて」に出会ったのも、YouTubeさんが僕の好きそうな歌として「おすすめ」してくれたからです。僕は「おすすめ」されるまでこの歌を全く知らなかったのですが、よくぞ「おすすめ」してくれたと感謝しています。

実は、作詞作曲、歌とも中島みゆきさんと書いていますが、僕に「おすすめ」してくれたときの歌は、中島さんが歌っている楽曲ではなく、高畑充希さんが歌っている楽曲でした。前に「366日」という歌を紹介したことがありますが、その歌も本来リリースした「HY」さんではなく、上白石萌歌さんがCMのメーキングビデオで歌っているものでした。「366日」を紹介したときのコラムにも書きましたが、僕は妻に言われるまで「HY」さんの歌とは知らなかったほどです。それほど上白石萌歌さんにぴったりはまっていた歌でした。

同じように、「ホームにて」の高畑さんも素晴らしかったのです。なにげなく「おすすめ」をクリックしてそのまま歌声とメロディーの魅力に引き込まれました。繰り返しになりますが、中島さんの歌とは全く知らずに好きになっていました。そもそも僕はそれほど歌にマニアックに入り込む体質ではありませんので、ヒットした曲しか知らない人間と言っても過言ではありません。ですので、この歌のように、中島さんの大ファンなら誰でも知っているであろう歌でも、僕は知らないことが多々あります。この歌はまさにその一曲でした。

僕が、ある歌を好きになるとき、メロディーから入ることが多いのですが、そのとき歌詞は「なんとなく」覚えている感じでいます。理由はわからないのですが、歌詞を完全に正確に覚えてしまうと「飽きて」しまうのです。しかし、うろ覚えのままでいる間は絶対に「飽きる」ことはありません。

「ホームにて」もなんとなく、ところどころを口ずさむ感じでずっといたのですが、先日なにげに歌詞を最初から最後まで丁寧に読んでみました。そのとき初めて真剣に歌詞に向かい合ったのですが、この歌は田舎から出てきた人が(夢破れて?)田舎に帰るときの心情をつづった内容であるように思いました。そして、その中で気になった一節がありました。

♪かざり荷物を ふり捨てて

という部分なのですが、「かざり荷物」ってなんだろ? と疑問に思い、調べますと、なんと中島さんの創作した言葉ではあ~りませんか! これまでなかった言葉を作り出したのですからこれほどすごいことはありません。しかも、伝えたい思いが心の中に染みこんできます。

「かざり」という言葉で、「上っ面」とか「表面的」という軽っちょいマイナスなイメージが湧きますし、そのうえ「荷物」ですから、「背負った」とか「しょい込んだ」という決して明るい状況ではないことも伝わってきます。歌詞の主人公は集団就職かなにかで上京してきて、ある程度の年月を過ごしたのちに地元に戻ることを決断した方なのでしょう。

ちなみに、「軽っちょい」は僕の造語です。(~_~;)

僕が最初に社会人になった企業はスーパーでした。当時、スーパー業界はどこも高卒の女子を大量に必要としていました。ですので、北は北海道・青森など東北地方から、南は沖縄から大量に採用する方式が一般的でした。働く側からしますと、集団就職ということになります。

若い女の子が地方から東京に出てきますと、やはり誰でも都会での生活でそれなりに楽しい時間を過ごします。地方とは華やかさが違いますから刺激的でとても満足した暮らしをするものです。そんな中である人は結婚相手を見つけ定住するのですが、いい人が見つからず都会の生活にも疲れたある人は、この歌詞のように地元に帰る選択をすることになります。

そうした人たちを間近に見ていましたので、僕はこの歌詞に共感するものがあります。人生、本当にいろいろです。

♪ふるさとへ 向かう最終に

♪やさしい やさしい声の 駅長が

ここでわざわざ「やさしい」を2回繰り返していることで、そのときの主人公の気持ちが伝わってきます。主人公は、やさしい人を求めたくなるほど、心が傷ついているのです。

♪ネオンライトでは 燃やせない
♪ふるさと行きの乗車券

上京した人にしかわからない気持ちですよねぇ。

それでは、また。

追伸:
この歌詞を読んでいましたら、思い出した光景がありましので、書いちゃお…。

僕が就職して2年目、異動して2店目の店舗にいたときのことです。ある日、高校生くらいの女の子がレジ係として入ってきました。言葉のイントネーションからしますと東北地方の雰囲気がします。普通、高卒で入社してくるのは4月と決まっています。しかし、その子が入ってきたのは6月で、しかも正社員ではなくアルバイトという立場で入ってきました。

体格的にはそれほど大きくもなく、身長もごく普通の女子くらいでした。そうした外見からしますと、一般的には弱弱しい雰囲気がしないでもありませんが、その女の子は不思議と、ふてぶてしいというのはないのですが、なんていいますか、デンと腹が据わっている感じがする女の子でした。とても17才の女の子とは思えない風格のようなものまで漂わせていました。

仕事はいわゆるレジですので普段はレジの前に立っているのが仕事です。僕が担当していた部門は衣料品を扱っているフロアでしたので、食品フロアと違いそれほど混むということがありません。ですので、お客様がいないときは手持ちぶたさになることもあります。

少しずつ仕事にも慣れてきて1ヵ月を過ぎた頃から、その子は営業時間が始まる前とか営業時間中でも暇なときに、僕の近くに来て話しかけてくるようになっていました。いわゆる世間話というやつです。その子が従事しているレジ係は周りがパートさんですので年齢的には30才~40才くらい離れています。僕は20代前半でしたので、そうしたことも一因だと思いますが、その子は僕にいろいろな話をするようになっていました。

その子の話では、年齢は17才、ですから本来ならまだ高校生ということになります。青森県から上京してきたということでしたが、言葉のイントネーション、きつい表現をするなら訛りがあったのは青森出身だったからでした。高校生の年齢で上京してくる、ということはつまりは高校を中退してきたことになります。

そうした話を聞いていますと、その女の子の度胸に驚かされます。17才という年齢で高校を中退して上京してきたのです。それまで東京で親元でのほほんと暮らし生きてきた僕からしますと、その勇気に尊敬の念を抱いてしまいます。

そんなある日、仕事中にレジから少し離れたところで、その女の子が同じ年齢くらいの男の子と話していました。遠目に見ていますと、真面目な話をしているようで、笑顔になることは一度もなく、真剣な面持ちでたまにお互いの眼差しを推し量るように向き合っていました。しばらく話し込んだあと、その男の子は帰っていきました。

翌日、その女の子が話しかけてきました。

「昨日の、見てたでしょ。あの子田舎の友だちなんだ。東京に出てきたんだって。私を追って…」

驚いてその子を見ますと、その子はうつむいていました。

その女の子は、その後も時間のあるときに世間話をしに来ていましたが、2週間ほど過ぎた頃、突然退職してしまいました。

ホームにて。

あの子はいったい、どうしているでしょう。

追伸:おわり。

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