あなたの心に

作詞:中山千夏/作曲:都倉俊一
1969年9月1日に発売された中山千夏さんのデビュー・シングル

中山千夏さんと聞いてご存じの方は中高年以上です。60代半ばの僕が中学生くらいのころにヒットした楽曲ですが、中山さんは当時「才女」と謳われていたほどの売れっ子でした。僕が最初に中山さんを知ったのは「ひょっこりひょうたん島」という人形劇ですが、その中で声優を務めていました。この番組も中高年以上でないとご存じないと思いますが、当時、子供たちに大人気の番組でした。

ちなみに、この番組の原作はのちに大作家となる井上ひさしさんですが、当時の僕はそんなことはつゆ知らずただただ楽しく見ていたように思います。基本的にこちらの方面に詳しくありませんのでそれ以上のことは覚えていませんが、中山さんがこの番組で声優をやっていたのもあとから知ったことで、そのときも驚いた記憶があります。

僕が中山さんで強烈に覚えているのはTBSテレビで放映されていた「お荷物小荷物」というドラマです。林隆三さんが相手役でしたが、階段だったか、洗濯物を干す場所だったか、忘れてしまいましたが、そこに中山さんが腰かけて悩んでいる場面が、不思議と今も記憶に残っています。

そのほかに中山さんに関することで覚えているのは、学生時代にバイトで知り合った先輩から聞いた話です。その先輩は偏差値の高い大学に通っていたバンカラふうで、いかにも貧乏な学生といった風情で、当時阿佐ヶ谷に住んでいたのですが、隣町の高円寺までよく遊びに行っていました。

その先輩が僕に「中山千夏が『おんなの身体ノート』って本出しているんだけど、結構面白いよ」と教えてくれました。20才前後で頭の中を女体が駆けまわっていた僕からしますと、「おんなの身体ノート」というタイトルだけで興奮した覚えがあります。正しくは単に「からだノート」というタイトルだったのですが、先輩が僕にわかりやすく「おんなの」とつけてくれたので興奮がより高まったのでした。

作詞は中山さんですが、作曲は都倉俊一さんです。都倉さんで記憶に残っているのが、作詞家阿久悠さんのお話です。阿久さんは「スター誕生」という若いアイドルを発掘する番組を誕生させた方ですが、その方がある日レコード会社に行ったときに派手な会社に乗っている青年を見かけたそうです。そのことを会社の人に話すと、最近売り出し中の若手作曲家と教えてもらったそうです。

阿久さんはその都倉さんをスター誕生に引き入れるのですが、途中幾度か「都倉さん自身」を売り出そうとした気配がありました。おそらく都倉さんの洗練された外見や雰囲気が縁の下ではなく、表に出したほうがいいと判断したのだと思いますが、そうした嗅覚の素晴らしさがわかるエピソードです。

「あなたの心に」はフォークソング風の歌ですが、実際レコードのジャケットもフォーク全盛が全面に出ています。

♪あなたの心に風があるなら

♪私ひとりでふかれてみたいな

ね、ね、ね、なんと素朴な歌詞でしょう。これぞ昭和!という感じです。今から14~15年ほど前、すでに作詞家として格たる地位を得ていて秋元康さんは、あるインタビューで「これからの作詞はどのようになっていくのでしょう?」という質問に「これから以前のようにシンプルでわかりやすい歌詞が主流をしめていくんじゃないかな」と答えていました。
当時は、少しばかり込み入った歌詞が流行っていたのですが、「そうした時期が過ぎて、また昔のような歌詞に戻る」というお話でした。まさに「あなたの心に」はシンプルで心の中に素直に入っていける歌詞です。

複雑な恋愛に疲れたら聞いてみたい楽曲ですね。

それではまた。

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