作詞:谷村新司 作曲:堀内孝雄
歌:アリス
先月、谷村さんがお亡くなりになったことで、アリスの「遠くで汽笛を聞きながら」を紹介しました。この歌もアリスの歌ですが、ほかのヒット曲ほどには売れなかったように記憶しています。基本的に僕は、ヒットした歌はあまり心に刺さらないことが多いのですが、アリスの歌でこの歌は一番好きな歌でした。
「遠くで汽笛を聞きながら」のときには書かなかったのですが、アリスが解散したきっかけについて、堀内さんが話していました。「僕の嫉妬でした」と。アリスでヒット曲を出しても、みんな谷村さんに人気を持っていかれることに「嫉妬」していたそうです。
しかし、谷村さんはおそらくそれを感じていて、それでもなお変わらない友情を続けていたのだと思います。そうした姿勢に尊敬の念を抱かずにはいられません。懐のなんという深さよ。解散後、谷村さんは「昴」とか「サライ」とか国民的な楽曲を生み出していますが、それでもなおアリスを復活させています。懐のなんという深さよ。そうであるだけに、志半ばでの旅立ちは心残りだったろうと思います。
大分前ですが、インターネットの番組で堀内さんが話していたことが強く印象に残っています。解散後個人で活動するようになったあと、次第に活躍する場がなくなっていき悩んでいたころ、意を決して谷村さんに相談したことがあるそうです。そうしたときでも、谷村さんは堀内さんを突き放すこともなく、親身になって相談に乗ってくれたと感謝の言葉を話していました。
アリスは谷村さんと堀内さんの二人ボーカルだったのですが、この歌は堀内さんがメインで歌っています。作曲も堀内さんですから本人としても気持ちよく歌っていたと思います。しかし、生でこの歌を聴いたとき、僕はとても残念に思いました。前に書きましたが、僕が人生で最初で最後に行ったコンサートはアリスの武道館なのです。そのコンサートで聴いた堀内さんの歌声はレコードやテレビなどとは少しばかり違っていました。
具体的には、堀内さんの歌う「さ行」がすべてほとんど同じに聴こえ、歌詞の内容が聴き取れませんでした。テレビで聴いていたときにはきれいに聴こえていたのですが、武道館ではほとんどの「さ行」の歌詞がわからず落胆した想い出があります。
コンサートでの歌声を忘れるなら、この歌はやはり名曲です。メロディーも素晴らしいですが、僕の心に染み入るのは歌詞です。そして、歌詞を染み入らさせる心の状態にさせているのがタイトルです。「終止符」を「秋止符」と「秋」にしているところが、まさに谷村さんの「妙」です。
そして、
♪左利きのあなたの手紙
♪右手でなぞって真似てみる
いったいどのようにしてこのような情景、発想が浮かぶのでしょう。これを天才と言わずなんと言いましょう。僕の中では、この歌詞の部分は吉田拓郎さんの「外は白い雪の夜」と重なる部分があるんですね。「外は白い…」は松本隆さんの作詞なのですが、どちらも歌詞の天才です。
♪友情なんて呼べるほど
♪綺麗事で済むような
刺さりますよねぇ、激しく燃えるような恋愛をした人からしますと…。ウフ。
♪心も体も開きあい
♪それから始まるものがある
「体も」というところがいいですよね。心だけじゃ、なんかウソっぽくて上っ面の感じがするじゃないですか。やっぱし、「体」がなくちゃ。谷村さんの真骨頂といったところでしょうか。
♪重いコートは脱ぎすてなければ
そうなんですよ。いつまでも終わったことに振り回されていては生きてなんていけやしません。
ということで、今週はここまで。
それでは、お暇します。