「真夜中のダンディ」

桑田佳祐の楽曲。自身の3作目のシングルとして、タイシタレーベルから8cmCDでちょうどソロデビュー6周年となる1993年10月6日に発売された。
2001年6月25日に12cmCDとして再発売

この歌はサザンオールスターズの桑田さんが作詞作曲した歌なのですが、桑田さんがソロで活動しているときに発表した歌のようです。桑田さんを知ったのは、デビュー曲の「勝手にシンドバッド」が衝撃的だったからですが、大ファンというわけでもありませんでした。

それがあるとき、ファンといいますか、興味を持つようになったきっかけは、ラーメン店時代の学生アルバイトさんから「ロックの子」という本を貸してもらったことです。この本は桑田さんがデビューしてから10年後くらいに出版した本ですが、そこにはメンバー内における人間関係の軋轢など精神的な苦しさなどが書いてありました。

あれだけ成功していても、また仲良さそうなメンバー間でも問題っておきるんだなぁ、と思った記憶があります。それ以来、違う視点で桑田さんをみるようになりました。

僕がこの歌に惹かれたのは3番の歌詞に感動したからです。

♪愛と平和を歌う世代がくれたものは
♪身を守るのと知らぬそぶりと悪魔の魂
♪隣の空は灰色なのに
♪幸せならば顔をそむけている

からしますと、この歌詞はベトナム戦争世代とかヒッピー世代とか、つまりは僕たちの年代よりもさらに10年古い世代に対する批判のように思えます。僕は桑田さんと同世代なのですが、僕も同じような発想を持っていました。僕たちの世代よりも10年古い世代といいますと、日本では学生運動真っ盛りの時代で、いわゆる全共闘が幅を利かせていた時代です。

こんなことを書きますと、僕が学生運動に詳しそうで、政治について熱く語る堅物のような人間と思われそうですが、そういうこと全くなく、普通の平凡でノンポリな学生でした。そんな僕ではあったのですが、なぜか世の中の不公平なことには敏感に反応する性質も持ち合わせていました。

ユーミンさんが作詞作曲し、バンバンという二人組が歌ってヒットした「いちご白書をもう一度」という歌があります。この歌の歌詞には

♪僕は無精ヒゲと 髪をのばして
♪学生集会へも 時々でかけた

♪就職が決まって 髪を切ってきた時
♪もう若くないさと 君にいいわけしたね

という一節があります。この2つの歌詞を照らし合わせますと、僕らよりも一世代上の人たちのズルさが透けて見えてきてしまうのです。学生という無責任でいられる状況のときには、社会に対して反発し、いざ生活がかかるようになるとあっさりと大人に迎合する姿勢に不快な気持ちになっていました。桑田さんの歌詞からもそのような憤りが感じられました。この歌を初めて聴いたとき、あまりに感激してCDを購入したほどです。

この歌を知ったきっかけは、桑田さんの「孤独の太陽」という歌をなにかで聴いたことです。基本的に僕はバラード調の歌が好きなのですが、「孤独の太陽」は僕の感性にピッタリくるバラード調の歌でした。そして、その歌を探していたときに、たまたま出会ったのが「真夜中のダンディ」でした。

あとから思い出したのですが、「真夜中のダンディ」はテレビでも宣伝もしていました。しかし、そのときはこの歌の魅力が伝わってきておらず、スルーしていたのです。いつも思うのですが、歌に魅力を感じるときってタイミングがあります。なにか心にその歌が入り込むキーのようなものがあり、たまたまそのキーがピッタリとはまったときに魅力を感じるのかもしれません。

「真夜中のダンディ」の歌詞を真剣に考えていきますと、「人はいったい、どこまで他人に対してサポートすればいいのだろう」もしくは「できるんだろう」という難問にぶつかります。先ほどぼくは、一世代前の人たちに対して批判しましたが、「隣の空が灰色」だとしてもなにからなにまで手を差し伸べるのは現実問題として不可能です。

やはり、自分の好きなことや楽しい生活を我慢してまで「灰色の空の下」の人たちに手を差し伸べることはできません。そこまでの良心の持ち主ではありません。だからと言って、なにもしないでいるのも心のどこかに罪悪感のようなしこりを持ってしまいます。もちろん親友とか親戚とか親しい人が困難に陥ったときは躊躇することなく手を差し伸べたい気持ちにはなるでしょう。

問題はその境目です。今から20年くらい前、山口県で母子殺害事件が起きました。この事件は文字通り「母子」が殺害された事件なのですが、事件の残虐性とともに遺族であるご主人が心からの訴えを情報発信したことで多くのマスコミから注目されました。

僕が一番記憶に残っているのは、ご主人が裁判を傍聴する際に遺影を持ち込もうとして、裁判所から拒否された際に発した言葉です。ご主人は遺影を両手で持ち「僕は、あかの他人のために涙は流さない」と涙ながらに訴えていました。「どうして当事者が遺影を持ち込むことができないのか」と異議を申し立てていました。

この事件をきっかけにして、その後被害者が裁判において意見を陳述できるようになりました。

「真夜中のダンディ」からは世の中の不公平さに対して憤る気持ちが感じられますが、実はこの歌で僕が心を動かされるのは最後の歌詞のこの部分です。

♪可愛い妻は身ごもりながら
♪可憐な過去をきっと憂いてる

どうです。最後は自分の生活感に戻ってきています。僕はこの部分にくると、なぜかこみ上がってくるものがあるのです。えっ、ゲロじゃないですよ(^_-)-☆

それでは、また次回。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする